私たちが大切にするべきものは何だろう? 大切にするってどういうこと? 日々を綴る中で、片鱗に触れられたら幸せです。

稟さん・お産体験記②

助産院へ駆けつけ、
出産の体制に入ったとき。

「えっえっ!?」

モモさんの顔色が変わった。

「赤ちゃんの心音がとれへん!
なんで!?ちょっと待って!!
お母さん、深呼吸して!!
酸素がいかへんと、死んでしまう!」

酸素を供給するための機械が運ばれ、
口にあてられた。

普段は冷静な旦那さんが、
「深呼吸!深呼吸!」
と慌てて繰り返す。

見えない世界。
赤ちゃんは今どうなっているんだろう。
自分の体の中なのに、
何が起こっているのかわからない。

わたしには、
陣痛の波を感じながら、
深呼吸すること以外、
何もできなかった。


死んで、しまう…?


モモさんが、119に通報した。

救急車が来た。

でもその前に、
タイミングは覚えていないのだけど、
赤ちゃんの心音が戻っていた。

あぁぁ。

あの安堵感と緊張感、
どう表現したらいいのだろうか。

子宮口が十分開いていなくて、
出産まで時間がかかるだろうと、
いざというときの対応も考え、
結局病院に搬送された。

病院に着いて2時間後、
数人の助産師さんに支えられて、
小さな命が産声をあげた。

痛かったよ、
苦しかったよ、
お股を開いたときなんて
どうなっちゃうんだろうって
すごーいドキドキだったよ。
でも、大丈夫だったよ。

聞いてはいたけど、
顔を見たら痛みなんて忘れてしまうって、
本当だった。

産まれてすぐは抱けなくて、
しばらくしてから対面。

小さな小さな体から
大きな大きな泣き声。

ようやく、ようやく、
会えたんだね。
無事、終わったんだ。

休みの日で家族も駆けつけてくれた。
安産だよー、と母が励ましてくれた。
父は始終ニコニコしてた。
旦那さんはちょっぴり涙ぐんでた。


お産ってドラマだなって思った。

ドキドキも緊張感も
全部ひっくるめて、
それがあるから、
命が産まれる喜びを
噛み締められるんだと思った。

どんな安産と言われるお産でも、
その人とその子のかけがえのない経験。


池川先生の著書「笑うお産」を読んで、
わたしも笑うお産するぞ〜と思っていたけど、
死んじゃうかも!というこの涙もひっくるめて、
笑わせてもらうしかないと思った。

結局、なぜ心音が取れなかったのかはわからずじまい。
「あの時、赤ちゃんはかくれんぼしてたのかなー?」と話している。


こうして娘に出逢えたこと、
そしてすべての命が今ここにあることは
本当に本当に奇跡なんだ。